エンリッチド・エアの安全性は古くから検討されてきました。多くの研究データから、安全に潜るための具体的な深度や潜水時間が明確にされており、決められたルールを守ればレクリエーショナルダイバーも安全に使用することができます。
多くの皆さんが気にされるのは、「高濃度酸素を吸って活性酸素が増えても害はないのか?」ということだと思います。 それに対する回答として、活性酸素に着目した安全性評価試験をひとつ紹介しておきましょう。この研究は、PADIダイバーにも協力してもらい、伊豆の海で行なったフィールド実験です。
酸素には善玉酸素と悪玉酸素があります。善玉酸素は人が生きていくために不可欠な酸素で、体のあらゆる組織で消費され、二酸化炭素として体外に排出されます。 一方、悪玉酸素は活性酸素といわれ、細胞を傷つける性質があり、がんや生活習慣病を始めとして、ダイビングでは酸素中毒の原因として知られています(*1)。 この活性酸素について、ダイバーに酸素濃度の違ったガスを使用してもらい、ダイビング前・後で血中レベルを測定しました(*2)。
結果は、通常の空気タンクを使ったダイビングでは、水中で心拍数の低かったダイバーは活性酸素が減少し、心拍数の高かったダイバーでは増加していました。 運動量が多いダイバーや緊張するダイバーに活性酸素が増加する傾向があるのです。 一方、エンリッチド・エアを吸ったダイバーでは、水中で激しい運動をしなくても上昇する傾向がありました。 ただ、これらの値は個人レベルでは高くなりましたが、一般的な健常者の基準値を上回るものではありませんでした。 上昇した程度は、陸上で少し激しいジョギングをした後の値に相当し、翌日、測定すると元のレベルに戻っていました。
この結果が意味することは、エンリッチド・エアを使うと、活性酸素は上がるものの体に悪影響を及ぼすほどではないこと、上昇したレベルはジョギングをした時と同じ程度であり安全であるということです。 このような実験が多方面から行なわれ、エンリッチド・エアの安全性が確立されました。
*1 活性酸素は悪玉扱いされがちですが、病原菌を殺す役割もあるため、実際には善玉同様、ある程度体の中にはなくてはならない酸素です。 呼吸で取り入れた酸素の2~5%は活性酸素になるため、酸素濃度の高いエアを吸うと活性酸素は増加する傾向があります。
*2 活性酸素はすぐに形を変えてしまうため、実際に測定したのは代謝過程で生じるヒドロペルオキシドという物質です。
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